みなさまこんにちは。何時もありがとうございます。
祇園祭の鉾巡行も終わり、朝の大合唱の蝉時雨を聴くと、どうやら梅雨明けの様子で、これから夏本番といったところの京都市内です。気温に比例して当店の注文の品も温・冷の割合が3対7から2対8位になってきて調理場に居ましても外の暑さを感じる事が出来ます。
蕎麦屋で冷たいものの定番と云えばやはり”ざる”が最も頭に浮かぶんじゃないでしょうか? 例外ではなくこの時期一番出ます。冷たくて喉ごしも良く、食欲が無い時にでもスルスルと食べられる救世主です。
それを食べ終わった後にお出しするのが”そば湯”です。
文字通り、そばを湯がいている釜のお湯を専用の容器(湯桶”ゆとう”)に入れてアツアツを供します。今まで食べていた漬け汁に入れて薄めて飲んでいただこうという趣向です。これだけでは飽き足らずに、わざわざそば粉を溶いてポタージュスープの様な濃さにするお店もあります。そば湯には、そば粉のいろんな栄養素が溶け込んでいますから、それをも摂取してもらおうとしたのでしょう。
そのそば湯を飲む行為が常の僕をも驚かす、お客様の一言が「すいません、冷たいそば湯下さい!」だったのです。
先述しましたが、そばを湯がいた茹で汁ですので釜から出たてのアツアツなのです。
「冷たいそば湯」の概念は有りませんでした。
お客様の意見は「こう暑くては最後に飲むそば湯でさえも熱い!さっぱりした口で帰りたい。」と仰ったのです。その場はお断りしたのですが、お帰りになった後、「まてよ!ひょっとしたら美味しいかもしれないし、有りかも?」と思い”冷たいそば湯”なるものを作ってみました。そして飲んでみました。結果は?
…“無し”です…これはお出し出来ません(苦笑)。
わざわざそば粉を溶かして作ったものですから、サラサラしていませんし何よりも出汁を割った時の香りがたちません。それまでは冷たさゆえに感じられなかった漬け汁に潜んでいる、鰹や昆布、山葵といった材料がアツアツの湯を入れることによって顔を出すのです。そう!これこそがそば湯の醍醐味なのです。
まぁそんなに大層なものでもないので、全部飲み干さなくっても大丈夫ですが…。
少なくともこれを読んで下さった方は、ざるそばを召し上がった後に出てくる湯の入った桶に首を傾げる事はなくなって欲しいものです。
あ、そうそう、そば屋の釜のことを、いい加減な奴の形容で使ったりします。
えっ!”言う(湯)ばっかり”云いましてね…(笑)