「うどんや風邪薬」

皆様こんにちは、毎度お付き合いありがとうございます。
お越しいただく、お客様のお召し物の素材や色合いで秋の深まりを見てとれる今日この頃です。

さて今日は、奇妙な名前の風邪薬のお題で始まります。
うどんや風一夜薬」。
実際に今も流通しているれっきとした風邪薬の名称です。
うどんや風一夜薬

『株式会社うどんや風一夜薬本舗』さんの商品名で、明治の頃の大阪生まれの風邪薬です。当時の大阪の街に数多く存在した、「うどん屋」さんに卸して、熱いうどんを食べた後に服用して一夜で治そうという、一風変わった販売戦略です。

調べてみますと、その頃の江戸には「そばやの風一夜薬」もあった様で食文化の違いも垣間見る事が出来ます。
好きな上方落語にも”風邪” を題材にした「風邪の神送り」という演目があります。
今の様な薬が無かった時代に風邪で亡くなる人の多かった頃の話で、或る町内に風邪が流行り、若い衆が寄付を募り「風邪の神送り」を催そうと企てます。
紙で作った人形を「風邪の神」に見立て、お囃子と共にねり歩き、町内から追い出して最後には川に流して疫病に退散願います。
その紙人形は流された後、川下で行われている夜の漁の網に掛かります。
それぞれの人の情念が宿った人形ですので人の形にスッく、と立ち上がります。

漁師が「お前は何や?」と訊きますと
その人型は「俺は風邪の神や!」
漁師が一言、「あぁ、それで夜網(弱み)につけこんだな」
と、粋なサゲです。

もう少し寒くなりますと、マスク姿のお客様も増え、鼻声での注文回数も多くなってきます。
当店にも風邪の治癒に一役買う、温かいメニュー沢山ございます。
餡掛け(あんかけ)
鍋焼きうどん

“餡掛け”  “鍋焼きうどん”
もちろん、”うどん・そば” どちらの台でも出来ますが”餡掛け”には”うどん”の方が合う様に思います。
“餡掛け”には全て”おろし生姜”を盛りますし、”鍋焼きうどん”はグツグツと沸騰した状態で供します。
美味しい思いもして、身体の芯から温まってもらって風邪薬の効きも倍増です。

ちょっと引き始めかな?って思ったら是非お越しください。
“餡掛け”も沢山の種類がございますので、何度でも引いて下さい(笑)
まさに「うどんやの風邪薬!」

「そういうお前は、風邪引かへんのかいな!」って、ですか?
昔から云いまっしゃろ!
「アホは風邪引かん」て…。m(__)m

冬季メニューの紹介 「鴨なんば」「鴨せいろ」|Kamo,negi,seiro,winter menu

鴨肉

みなさまこんにちは、何時もありがとうございます。
街路樹のイチョウも銀杏をたわわに実らせ、葉も黄色く色づき始め秋の深まりを予感させています。

さて今日は、そんな季節にふさわしくなってきた冬のメニューを紹介したいと思います。
例えに、”好都合である”とか”おあつらえ向き”を表す「鴨が葱背負ってやって来た」って言葉がございます。
鴨が葱と共に有ると、直ぐに”鴨鍋”が出来て便利だなと云う、食べ物を引用した諺(ことわざ)です。
そんな例えになるくらい、鴨の調理には葱が欠かせないのです。

鴨なんば
鴨なんば蕎麦」は、文献では頃は江戸中期、東京日本橋の或蕎麦屋が発祥とありますが、何とも暖かそうな種物を考案されたものです。
先回にも述べましたが、関西では「鴨なんば」の”なんば”とは葱のことを差しますので、まさに”鴨葱蕎麦”と言っているのと同じです。

一口に鴨と言っていますが、今では”合鴨”を使う店が殆どでしょう。合鴨とは”真鴨”と”家鴨(アヒル)”の交雑種、いわゆるハイブリッドです。”本鴨”に比べると身の柔らかさや、安定供給がメリットですが、なんと言いましても通年提供出来ると云うのが一番の理由じゃないでしょうか。

一方、葱も通年の野菜になりましたが、本来は糖度や粘度で寒さから身を守るために自身で柔らかくなった冬の野菜です。
鴨なんば」、脂がのり始めた鴨と柔らかく甘さの増した葱、この二つの相乗効果が美味さを造る蕎麦屋の冬の代表格の種物です。

鴨肉 鴨肉鴨や葱を焼いたり、鴨だけを炊いて葱は炙ったりとか、各店それぞれに違ったやり方がございます。
当店、「鴨なんば」は“鴨は炙って”、“九条葱はさっと炊いて”お出しします。
「鴨せいろ」は両方炙って供します。

鴨せいろ「鴨せいろ」、関西でも馴染みになりましたが、僕が東京修業中の25年程前はまだ京都ではちらほら有るか無いか程度だったと思います。
冷たい「せいろ」を鴨と葱の入った熱いつけ汁でいただくつけ麺です。
つけ汁冷たい蕎麦を熱い出汁で食べるなんて一見矛盾している様に思いますが、店側の苦肉の策なのです。
これも前述させてもらった様に、丁度この時期に蕎麦も”新そば“に変わって来ます。
やはりどうしても冷たい”せいろ”で食べていただきたい店側と肌寒くなってきたので、冷たいのはちょっと…。と、云うお客様側の間をとった形になっているのです。
今では市民権を得て、有るのが当たり前!冬季の注文も多ございますが当初は怪訝な顔をされたものでした。

国産一本のお店や、輸入鴨(フランス産シャラン、マグネカナール、バルバリー)を使う店、はたまた、店主自ら撃って捌いた、野趣溢れる山間の店。
調理法も様々です。
当店は、京都宇治飼育産です。新鮮な肉を提供出来る自負もございます。

どうでしょう?今季は色々な「鴨なんば」「鴨せいろ」を比べる蕎麦屋巡りの算段ございませんか?
新しい発見がある”カモ”ですよ(-_-;)

急に涼しくなって来ました~(^ー^;A

  「蕎麦の湯がき方指南」| How to make delicious soba?

みなさま何時もありがとうございます。

生かすも殺すも釜次第!
「生かすも殺すも釜次第!」
最初から物騒な題で?って、なりますが、これは二十数年前、僕が東京修行時代に”旦那さん(親方)”の口がすっぱく成る程、こちらの耳にタコの出来る程聞かされ続けた言葉です。

“釜”とは蕎麦を湯がく釜の事で、その作業にあたっている人を”釜前さん”と呼びます。そば粉の吟味に始まり、色んな行程を経て麺状になり、お客様の口に入る最終行程が湯がき作業になる訳です。
どんなに良い粉を使っても、名人と呼ばれている人が打っても最後の湯がきが下手ですと”駄そば“になります。逆に少々手抜きに打っても釜前さんの仕事が良いと”美味しい麺“に変わります。
「生かすも殺すも釜次第!」。
最後まで手を抜かずに仕事をしなさい  という戒めの言葉だったのです。


生かすも殺すも釜次第!さて、当店でも夏場は暑さで腐敗の問題もあり今は止めておりますが、秋口から再開しようと思っております、”持ち帰り蕎麦“がございます。
ご家庭でも店と同じ味を…という訳で、生麺とお出汁をセットにして提供していますが、お客様からのお声で多いのが「上手く湯がけない」、「同じ味にならない」というのがございます。
そんな意見を踏まえて、少し湯がき方のコツみたいなものをお話しようと思います。もちろん、市販されている乾麺なり生麺でも同様です。

上手くいかない失敗例としましては、お湯の量が足りずに麺が湯の中で回らずに(踊るとも云います)ダマになって上がってしまったり、湯がき上がってからもたついてしまって、直ぐに冷水でしめられずにフニャフニャの蕎麦になってしまう…等々です。
改善出来る事例ばかりですので是非、参考にして下さい。

大体、生蕎麦100グラムを一人前とします。(市販の場合は記述してある通りで)。
そしてお家にある一番大きい鍋なり寸胴にお湯を沸かします。出来れば5リットル位は沸いていて欲しいです。そのお湯の中に(必ず沸騰している状態で)一人前を投入して下さい。必ず一人前ずつです。


必ず一人前ずつ湯がいてください
大事なのは、そのお湯の中で麺をクルクルと対流させる事です。麺が湯の中で踊ると均一に湯がき上がりますし、上がりムラが出来ません。その為にたっぷりのお湯が必要なのです。
そしてもう一つ。規定の表示時間よりも早い段階でザルなり網を鍋に入れ、時間と同時に上げられる様に事前に用意します。この段取りの良さが味を左右するのです。上がった蕎麦はキレイにぬめりを取り、冷水でしめます。


遠心力を使って優しくうどんや素麺の様にもみ洗いせずに一定方向に回し洗いして、遠心力を使って優しく行います。こうすると切れません。

随分とエラそうに指南なんて言葉を使いましたが失敗しても何度か挑戦してみて下さい。いずれ上手くいくと思います。そして自分のものにしていって欲しいです。
何度も云いますが、たっぷりのお湯で少量ずつ湯がく、これがコツです。
上手くいきますと、この作業が楽しいものにかわります。そうしますと他の麺料理のバリエーションが広がってきますしね♪

「そんな、七面倒くさい事出来ひん!」って思われましたら迷わず当店の暖簾をくぐって下さい。首を長くしてお待ちしております。
何せ、うちの店は「生かすも殺すも、お客様次第!」ですので……m(__)m

「緊張と緩和」

皆様こんにちは。何時もありがとうございます。
朝晩の涼しさと虫の音で少し季節の移り変わりを感じられるようになって来ました。
今日はエライ小難しい題になっておりますが大好きな落語のお話をしてみようと思います。まんざら接客業に関係なくもないので、暫くの間お付き合いを願います(笑)

もう少しで亡くなられて20年になりますが、大阪の落語家さんに”桂 枝雀”さんと言う方がおられました。私、小学生高学年の頃から傾倒していまして本気で弟子にとってもらおうと思った程でしたし、大阪や京都で行われる独演会やお芝居には欠かさず訪れたものでした。
その彼が唱えたのが、この「緊張と緩和」笑いの理論です。大なり小なり緊張が緩みますと笑いが生まれるというのです。
例えてみますと、最終電車に走ってギリギリ間に合い、乗った途端にドアが閉まると安堵の笑みがこぼれます。
又は大好きな女の子にドキドキで告白して、OKをもらったときもガッツポーズと共に笑みが出ますもんね。
こういった様に各人緊張と緩和が交互に訪れ毎日生きていけるのだろうと思います。緊張ばかりだと思い詰めますし、緩和しか無いのもダレますしね。

さて、せっかくなので大好きな落語で例を挙げてみましょう。

「饅頭こわい」。お好きな方は100%知っておられる古典落語の一つです。
ご存知無い方の為にざっと説明しますと、いつもの様に気の置けない仲間何人かが寄りまして”よもやま”の話をしている場面です。それぞれが「こわい物」が何かを順番に挙げていっているところで、ちょっと高い目線から皆を見下すように物言う男が一人。普段から偉そうにしているので皆に少し嫌われています。
その彼のこわい物が「饅頭」だったのです。これ幸いと皆が相談してお金を出し合い、ありったけの「饅頭」を買ってきます。
それを家に居る彼に向かって投げ入れ、あわてふためくのを見て楽しもうと算段します。彼が帰宅後に他の連中全員で訪ねて、一人ずつ「饅頭」を投げ入れます。
でも、物音一つしません。そりゃそうです。あれだけ怖がっていたものがあんなに沢山飛んできたのですから、気絶しているか或いは死んでしまったか?
一同に緊張が走ります。暫くすると中から何やらムシャムシャと音がしてきます。
戸の隙間から覗き見しますと、なんと!彼が嬉しそうに「饅頭」を食べているではありませんか!! これには皆もまたしてもやられた~!と落胆します。
「あんたのホンマにこわい物は何や?」と訊き直しますと中から彼が顔を出して
「へい、今度は熱いお茶が一杯…こわい」。これがサゲです。
ひょっとしたら、死んでしまったんじゃないかと思う緊張とそれを逆手にとって好物にあり着いた、正に「緊張と緩和」の笑いにふさわしい落ち(サゲ)になっています。

当店におきましても緊張材料と云いますのは、なんと言いましてもお客様です。
どんな方がお見えになるのだろう?  お口に合うだろうか? 雰囲気はお気に召したのだろうか?…かなり気になります。
これを緩和していただけるのも、やはりお客様です。ガラッと戸が開いて、入ってお見えになったのが常連様ですと思わず笑みが出ますし、「美味しかった!」って厨房にまでお声かけいただくと、ホッとして口角が上がります。
お客様の方でも初めてのお店は緊張材料でしょう。
味加減は良いのか?  接客態度は「◎なのか?」「 値段は相応か?」 等々あると思います。
それらを一つずつ緩和出来る様に努めていくことが、店を継続していく秘訣なんじゃないかと思っています。

えっ、「さっきからエラそうに言うてる、お前のこわい物は何や!」てですか?
「それはもう、とびっきり綺麗な女性と、今でしたら秋刀魚の塩焼、松茸と鱧の入った柚子の香りの利いた土瓶蒸し、キリッと冷えました純米酒が2合程…
こわい」。

おあとがよろしいようでございますm(__)m

「シェフおすすめの、淡路島産玉ねぎを使った、夏野菜ゴロゴロの自家製マヨネーズで和えたポテトサラダ」| Gonbe, Kitayama, Kyoto

皆さんこんにちは。何時もありがとうございます。

のっけから長ったるい題名で申し訳ありません。
これは実際にあった居酒屋さんのお品書きの一例です。何が入っているか全部載せている内にこんなに長くなってしまったのでしょうね。
でもこれでは、お客様が注文を取りに来た店員さんに言う時に困りますし確認の作業をされる時にもガマンしなくちゃなりませんよね。良く聴いていますと調理場に通す際には「ポテサラS一つ!」って言ってました(笑)
「Sって何?」って訊くと「スペシャルのSです」って、まぁこんなもんですよね。


店内(お湯のみ)これ程長い名前の品は当店には有りませんが、メニューに記載してある名前と調理場に口頭で通す時の通り符丁が在ります。少し例を挙げてみますね。


きつねうどん皆さん良くご存知の「きつねうどん」は「信太(しのだ)」と言ったりします。
これは人形浄瑠璃や歌舞伎の演目にある「蘆屋道満大内鑑」(あしやどうまんおおうちかがみ)葛の葉の子別れ。この「葛の葉」がキツネの化身、そのキツネの生誕場所が「信太の森」(現在の大阪和泉市)だったところから「きつね」を「しのだ」と呼ぶようになった様です。(粋ですね♪)


志っぽく「志っぽく」のことを「おかめ」
と別名で用います。蒲鉾、椎茸、筍、玉子焼き、湯葉といった具材を「おかめ・ひょっとこ」のおかめ顔に似せて並べたところからついた名前です。

丼に付く「赤だしのお味噌汁」のことも「味噌汁」とは云わず「八丁」なんて呼んだりします。「赤味噌」、つまり「八丁味噌」を短縮した呼び名です。


後は、台(だい)が、うどんか蕎麦と言うのが決まった通り言葉が在ります。
先程の「きつね」とだけ通すと台はうどんで出ますし、「鳥なんば」って通すと今度は蕎麦で出て来ます。“通り”(とおり)と呼びますが、この種物は”うどんの方が美味しいですよ”、とか、”これは蕎麦が合いますよ”、といった様に店側の希望が少し入っています。
“ざる”や”せいろ”って言ったら、うどん県以外では先ず蕎麦で出て来ますもんね。

僕も他のお店に食べに行った時には、その店の符丁を覚えて帰って次回訪れた時にでも使ってみたりします。
何かこう、店の人と直ぐに近しくなれそうな気もします。
どんな職業にも隠語や通り名といった符丁が存在していると思いますし、あまり深く突っ込まないまでも、ちょっと聞きかじってみるのも一興です。


あ、先程の「志っぽく」を「おかめ」と口頭で通す時は、ご婦人のお客様は避けなければなりません(笑)
「〇番さん、おかめです!」なぁんて云ったら、お帰りになりそうですもんね(>_<)