「”らは” が ”きたやま”」?

皆様こんにちは、いつもありがとうございます。
久しぶりのブログ投稿です。春の忙しさをよいことに怠けて申し訳ありません。

今年も爽やかな季候はすぐに去り、早くも観測史上最高の真夏日の気温をたたき出した5月となりました。朝晩の寒暖の差や、熱中症で体調を崩されませんようご留意下さい。

さて、今回も訳の分からないお題となっておりますが、飽きずに最後までお付き合い下さい。

先日、テレビをつけますと寿司屋でお客さんがいかにも知ったか振りをしてその店で間違った調理用語や、接客用語の隠語を多用し、見かねた店主に注意を受けるといった、芝居仕立てのバラエティ番組がありました。
この隠語というのはそもそも、店の人間同士がお客様に聞かれない様にとか、意味を短い言葉で伝え合うといった、さまざまな理由がありますが顕著にお寿司屋さんで多く使われているのはお客さんとカウンター、つまり対面での接客が主だったからだと思います。
ちょっと知っている言葉を挙げてみますと

  • あがり→お茶
  • しゃり→すし飯
  • むらさき→醤油
  • ガリ→生姜
  • げそ→イカの足
  • お愛想→勘定

等々、まだまだ出てくると思いますが、皆さんもなじみのある言葉ばかりですね。
これくらいの用語ならもう、随分と一般的になっていますし使ってもそう嫌みには聞こえないんじゃないでしょうか。

この隠語の成り立ちをみてみますと、結構ダジャレが多かったり、逆さ言葉だったりとあまり難しく無さそうです。
中にはちょっと粋なネーミングもあったりして、調べていきますと結構面白いです。

最初の”あがり”は、お茶の意味で使用するのですが、これは花街すなわち遊廓や芸者衆の言葉だそうで、客の付かない芸者さんや遊女を「お茶を挽く」と呼んだそうです。まぁ、お茶を挽ける程の時間や暇があると言ったところでしょうね。
ですので、この「お茶」と云う言葉を嫌って、「客が上がる」つまり客が店にやって来るという験を担いで「あがり」と呼んだそうです。
もともと、お寿司屋さんは立ち食い露店だった様ですので、これを良く利用した芸者衆の言葉が根付いたと思われます。
ですので、”すごろく”などでゴールを意味する「あがり」とはちょっと意味合いが違ってきます。

この言葉一つとっても、意味が分かると使ってみたいという気持ちも良く分かります。
何もお寿司屋さんに限った事でなく、我が蕎麦屋にも隠語や符丁は存在しますし日々使っています。
お客さんが何気なしに「お愛想お願いします!」なんて言われますが、これなどは店側がお客様に対して「たいしたお愛想も出来ずに申し訳ありませんでした」と、お勘定の時に使う、へりくだった言い方がそのまま「おいくらですか?」に変化したのだと思われます。元来あった意味合いとは違う使われ方に変化したのでしょうが、言葉って時の流れで変わっていくものの様なので、あまり目くじら立てなくってもよい気がしますけど。
でも余りにも知ったかぶりで使用しますとキザに聞こえたり店側にも嫌われそうですね。

食べ物商売だけではなく、いわゆる”業界用語”なんて呼ばれる言葉も、知らず知らずに使っていたりしますよね。
「ピン芸人さん」とか「ネタ」とか「巻く」、「ロケハン」とか思い付くだけでもいっぱいありますけど、もう隠語とは云えませんね。
「ネタ」などは「種(タネ)」を逆さまにしただけなのにこの言葉の方が通じる様になった例ですね。
「寿司ネタ」とか「ネタ帖」なんてこの方が分かり易く聞こえますもんね。

この言葉の遊びをふまえて今日のお題の「”らは” が ”きたやま”」ですが、何の事でしょう?
上方の古典落語「煮売屋」に出てきます一説です。
人前で話すことがはばかられる場面での言い回しで、「お腹が空いた」の意味です。
らは”は逆さ言葉で腹の事、”きたやま”は北山の事で、北に在る山々を眺めると何時も透いて見えている様子を表し、二つ繋げると「腹が透いた(空いた)」となります。如何にも落語的な言い回しですが、ちょっと使ってみたくなります。

当店にも隠語がそのまま商品名になった品があります。「板わさ」です。
これなども、蒲鉾が木の板に乗っている様からカマボコを”板”と呼び、それを”山葵醤油”に付けて召し上がっていただくので省略して”板わさ”って言います。「切り蒲鉾の山葵醤油添え」って云うより粋ですもんね!

最後にとっておきなのを一つ!
「蕎麦を喰いに行こう!」
この言葉自体が隠語だそうで江戸風俗の本をながめていますと
「女郎を買いに行く!」
の意味だそうです。驚きです!
「蕎麦は注文が通ってから打ち始めて、打ち上がるまで時間が掛かるその間に店の二階で遊女と枕を共にする、逢瀬を楽しもう」
というのです。
こんな艶っぽい言い方もあるんですね。

えっ!「良いこと聞いた!お前とこの二階貸してくれ!」ってですか?
お生憎様です。
当店の二階は僕も小さい時分から通ってお世話になっている、歯科医院が入って居られまして、艶の虫はおろか本当の虫歯を見つけられてたちどころに抜かれますよ!お気を付け下さい(笑)

皆さんも”らはがきたやま”でしたら是非一階へお越し下さい。
腹の虫は満足させられます!

今日はぼちぼちと上がらしてもらいます。

先述の通り、どんどん暑くなってきます。くれぐれもお身体ご自愛下さい。
お付き合いありがとうございましたm(_ _)m