皆さま何時もありがとうございます。
食材も暖色系のものが多くなり、目でも秋を感じとる事が出来る時節となりました。当店の”そば”や”米”も「秋新」を迎え、お客様の舌を肥さす準備も整って来ています。
さて先週は「新そば」とは?って、お話しましたが今週は、その打ち方についてちょっとだけ掘り下げてみたいと思います。
「手打ち」と「機械打ち」はどう違うのでしょう?
それぞれに長所、短所があります。
なにがなんでも「手打ち」が美味しいわけではなくて、下手に手で打つくらいなら機械で狂いなく打った方がよほど良いそばになるのも確かな事です。
少し専門用語になりますが、「手打ち蕎麦」の手順をおおまかに挙げてみます。
- 「水回し」粉に水を加えていく作業です
- 「練り」少しずつ塊になってくるので、それら同士をくっつける様に練っていき大きな塊に練り固めます
- 「くくり」練り固めたら木鉢の側面を上手く使い、表面の滑らかな円錐の塊にします
- 「丸だし」その円錐の塊を平らにし、”のし板”に移し丸く伸ばしていきます
- 「角だし」丸く伸ばした生地を今度は四角く角を出していく作業です
- 「幅だし」その四角くのした生地で蕎麦の最終的な長さにのしていきます
- 「本のし」最後に全体の厚みが均一になる様にのします
- 「たたみ」のした生地を切る用にたたみます
- 「切り」たたんだ生地を”駒板”というガイドに沿って裁断します
- 「湯がき」麺状にした生地を湯がく作業です
- 「水回し」粉に水を加えていく作業です
少し偉そうな用語でざっと説明しましたが、かなりの練習、稽古が必要ですしお客様の口に入れてもらってお金を頂戴しようと思えば速さや綺麗さも要求されます。
この1~9の作業を機械がやってくれるとしたら、量販出来ますし時間短縮も図れるかなり魅力的な話です。
時代は高度経済成長の頃、製麺機が登場しました。今ではほとんど見かけなくなり、何かのイベントの余興で披露されるくらいになりましたが、職人さんが沢山の“せいろ”を肩に担いで、自転車での出前が全盛期の頃の事です。この機械の導入で麺店は劇的に変わったことでしょう。
生産量の向上、人件費大幅削減、麺の味の均一化が約束されたのです。
でも今もって、この機械の構造や速さは変わっていませんが…。
少し話はそれましたが、「手打ち」と「機械打ち」とでは”そば生地”にどんな違いがあるのでしょう?
一番大きな違いは、そば粉に加える水の量にあります。「手打ち」の加水率の方が多いのです。
これを”多加水“と云いますが、これを同じ量だけ機械の撹拌機(カクハンキ)に入れますと後で伸ばす時に生地同士がくっついて上手くいかないのです。
機械は2つのローラーの間に生地を入れて伸ばしていきますので、かなりの圧力が麺体にかかります。
手打ちの場合、手と麺棒の圧しかかかりませんので生地の中に沢山の空気穴が出来ます。これに対してローラーではこの空気穴が押し潰されてしまいペッタンコの生地になります。実はこの空気穴が非常に大事で、後の茹であがりの時間を大きく左右します。
麺を湯がくというのは、湯を生地の中に入れていく作業になりますので、無数の穴が空いていると湯が入りやすく茹であがりが早くなります。
前にも書きましたが、麺類は湯の中に浸かっている時間が短ければ短い程美味しくなります。
ですので、最初から多加水で、湯が入り易くのされた「手打ち麺」は美味しくなるのが道理なのです。
早く茹であがると云う事は逆に、早く伸びてしまうともいえます。
ですから「手打ち麺」は温かい汁に浸かった種物には向かないのです。
もう一方の「機械打ち」では、あがりは遅くなりますが、麺体が均一にのされていますので決まった時間で湯がけます。これはその時間さえきっちり決めておけば誰が湯がいても同じ味になりますし、のびるのも遅くなりますので汁物にも充分に対応出来るのです。この辺のところが”出前”を流行らせた所以かもしれませんね。
非常に簡単に違いを説明しましたが、「手で打つ」のも「機械で打つ」のも両方とも人間が携わる事です。気温や湿度の変化の違いや、季節によっても変わる加水率を決めるのはやはり人です。同じだけ気を遣って打ちます。
当店は、「機械打ち」が専らですが、一日限定数で「手打ち」もお出ししています。
何人かでおみえいただいた時には、食べ比べされても面白いかもしれませんね。
先週も記述しましたが、これから秋本番!食べ物全般、美味しくなってきます。
蕎麦も例外ではありません。
外食されるレパートリーに是非とも加えて下さい。出来れば”多加水”で…m(__)m