冬季メニューの紹介 「鴨なんば」「鴨せいろ」|Kamo,negi,seiro,winter menu

鴨肉

みなさまこんにちは、何時もありがとうございます。
街路樹のイチョウも銀杏をたわわに実らせ、葉も黄色く色づき始め秋の深まりを予感させています。

さて今日は、そんな季節にふさわしくなってきた冬のメニューを紹介したいと思います。
例えに、”好都合である”とか”おあつらえ向き”を表す「鴨が葱背負ってやって来た」って言葉がございます。
鴨が葱と共に有ると、直ぐに”鴨鍋”が出来て便利だなと云う、食べ物を引用した諺(ことわざ)です。
そんな例えになるくらい、鴨の調理には葱が欠かせないのです。

鴨なんば
鴨なんば蕎麦」は、文献では頃は江戸中期、東京日本橋の或蕎麦屋が発祥とありますが、何とも暖かそうな種物を考案されたものです。
先回にも述べましたが、関西では「鴨なんば」の”なんば”とは葱のことを差しますので、まさに”鴨葱蕎麦”と言っているのと同じです。

一口に鴨と言っていますが、今では”合鴨”を使う店が殆どでしょう。合鴨とは”真鴨”と”家鴨(アヒル)”の交雑種、いわゆるハイブリッドです。”本鴨”に比べると身の柔らかさや、安定供給がメリットですが、なんと言いましても通年提供出来ると云うのが一番の理由じゃないでしょうか。

一方、葱も通年の野菜になりましたが、本来は糖度や粘度で寒さから身を守るために自身で柔らかくなった冬の野菜です。
鴨なんば」、脂がのり始めた鴨と柔らかく甘さの増した葱、この二つの相乗効果が美味さを造る蕎麦屋の冬の代表格の種物です。

鴨肉 鴨肉鴨や葱を焼いたり、鴨だけを炊いて葱は炙ったりとか、各店それぞれに違ったやり方がございます。
当店、「鴨なんば」は“鴨は炙って”、“九条葱はさっと炊いて”お出しします。
「鴨せいろ」は両方炙って供します。

鴨せいろ「鴨せいろ」、関西でも馴染みになりましたが、僕が東京修業中の25年程前はまだ京都ではちらほら有るか無いか程度だったと思います。
冷たい「せいろ」を鴨と葱の入った熱いつけ汁でいただくつけ麺です。
つけ汁冷たい蕎麦を熱い出汁で食べるなんて一見矛盾している様に思いますが、店側の苦肉の策なのです。
これも前述させてもらった様に、丁度この時期に蕎麦も”新そば“に変わって来ます。
やはりどうしても冷たい”せいろ”で食べていただきたい店側と肌寒くなってきたので、冷たいのはちょっと…。と、云うお客様側の間をとった形になっているのです。
今では市民権を得て、有るのが当たり前!冬季の注文も多ございますが当初は怪訝な顔をされたものでした。

国産一本のお店や、輸入鴨(フランス産シャラン、マグネカナール、バルバリー)を使う店、はたまた、店主自ら撃って捌いた、野趣溢れる山間の店。
調理法も様々です。
当店は、京都宇治飼育産です。新鮮な肉を提供出来る自負もございます。

どうでしょう?今季は色々な「鴨なんば」「鴨せいろ」を比べる蕎麦屋巡りの算段ございませんか?
新しい発見がある”カモ”ですよ(-_-;)

急に涼しくなって来ました~(^ー^;A

「冷たいそば湯下さい!」| About “Soba-Yu”

みなさまこんにちは。何時もありがとうございます。
祇園祭の鉾巡行も終わり、朝の大合唱の蝉時雨を聴くと、どうやら梅雨明けの様子で、これから夏本番といったところの京都市内です。気温に比例して当店の注文の品も温・冷の割合が3対7から2対8位になってきて調理場に居ましても外の暑さを感じる事が出来ます。

ざるそば,Zaru-Soba

蕎麦屋で冷たいものの定番と云えばやはり”ざる”が最も頭に浮かぶんじゃないでしょうか? 例外ではなくこの時期一番出ます。冷たくて喉ごしも良く、食欲が無い時にでもスルスルと食べられる救世主です。

それを食べ終わった後にお出しするのが”そば湯”です。
文字通り、そばを湯がいている釜のお湯を専用の容器(湯桶”ゆとう”)に入れてアツアツを供します。今まで食べていた漬け汁に入れて薄めて飲んでいただこうという趣向です。これだけでは飽き足らずに、わざわざそば粉を溶いてポタージュスープの様な濃さにするお店もあります。そば湯には、そば粉のいろんな栄養素が溶け込んでいますから、それをも摂取してもらおうとしたのでしょう。

少し前になりますがSNSで「そばを湯がいただけのお湯を飲む彼氏を受け入れられそうにない」といった題の投稿が有って物議を醸しました。生まれた時から蕎麦屋の倅の僕は、ごく当たり前の事でしたのでこの記事こそが受け入れられそうになかったのですが、関西、関東の文化の違いもありますし、一概には決められないんだなぁと、面白く読ませてもらったのです。

そば、Soba
そのそば湯を飲む行為が常の僕をも驚かす、お客様の一言が「すいません、冷たいそば湯下さい!」だったのです。

先述しましたが、そばを湯がいた茹で汁ですので釜から出たてのアツアツなのです。

「冷たいそば湯」の概念は有りませんでした。

お客様の意見は「こう暑くては最後に飲むそば湯でさえも熱い!さっぱりした口で帰りたい。」と仰ったのです。その場はお断りしたのですが、お帰りになった後、「まてよ!ひょっとしたら美味しいかもしれないし、有りかも?」と思い”冷たいそば湯”なるものを作ってみました。そして飲んでみました。結果は?

“無し”です…これはお出し出来ません(苦笑)。

わざわざそば粉を溶かして作ったものですから、サラサラしていませんし何よりも出汁を割った時の香りがたちません。それまでは冷たさゆえに感じられなかった漬け汁に潜んでいる、鰹や昆布、山葵といった材料がアツアツの湯を入れることによって顔を出すのです。そう!これこそがそば湯の醍醐味なのです。

まぁそんなに大層なものでもないので、全部飲み干さなくっても大丈夫ですが…。

少なくともこれを読んで下さった方は、ざるそばを召し上がった後に出てくる湯の入った桶に首を傾げる事はなくなって欲しいものです。

そば湯,Soba-Yu

あ、そうそう、そば屋の釜のことを、いい加減な奴の形容で使ったりします。

えっ!”言う(湯)ばっかり”云いましてね…(笑)

祇園祭と鱧(はも) | Gion Matsuri, Hamo

みなさまこんにちは、何時もありがとうございます。
7月に入って京都市内は”祇園祭”一色です。10日には鉾立ても始まり鉾町もムード満点になってきました。梅雨明け宣言はされていませんが今年は少し早い様な気もします。

さて今日は、お祭りに因んだ食材の話をしようかと思います。
“祇園祭”の事を別名”鱧祭り”とも言います。それほど祭りの期間と鱧の出回る時期が一致しているのです。明石や淡路島産が主ですが”梅雨の水”を飲んだ鱧が美味いと言われる様に梅雨から梅雨明けにちょうど旬を迎える魚が正に”鱧”なのです。


どうしてこの魚だけが真夏の京の代表味覚になったのでしょうか?
ご承知の通り、盆地の京都市内は周りの海からの魚介調達に頼っています。今でこそ輸送機関が発達して、早ければその日の内に入荷ということもありますが昔はそうはいきません。担ぎ(かつぎ)と呼ばれる行商人が歩いて入洛していたのです。
その荷の中で炎天下、生きて入荷出来たのが鱧だけだった様です。それほど迄、生命力の強い魚を食べて暑い夏を乗りきろうとしたのでしょう。

鱧の身は綺麗な白身ですので、調理法が沢山あり、料理の数も豊富だった事から
魚へんに”豊”になったと云われていますが、ちょっと”まゆつば”です(笑)


一番厄介なのが”骨切り”という作業で、この仕事がされていませんと食べることが出来ないのも職人さんの自尊心を煽ったことでしょう。

当店でも先日からお出ししています。

“鱧丼”

漬け焼きの鱧をもう一度蒸し上げて丼にします。
淡白な身ですので漬けダレの味加減になりますが、作って売っている本人が云うのもなんですが、添えた”茗荷” “大葉”がさっぱりと夏を感じさせる、美味しい丼だと思います。お祭りに想いを馳せて是非一度、食べてみて下さい。お腹も心も”豊”になる事請け合いますm(__)m