「料理は科学」

皆様こんにちは。今年初めての投稿です。
年末年始の忙しさにかまけて、横着して申し訳ありません。
「年越しそば」の土産をはじめ、暮れから新年にかけての沢山の御予約、御来店、誠にありがとうございました。
今年も一生懸命です。変わらぬご愛顧と、ご贔屓賜ります様、お願い申し上げます。

さて、正月のテレビも沢山の料理番組がありました。何気なしに視ていますと”出汁”の取り方について、京都の有名料亭の御主人がコメントしておられました。

“ちょっと前までは、水出しした昆布は沸騰直前で取り出すのを基本としていましたが、最近ではある程度までは煮出して、充分に昆布の旨味を引き出してからあげるといった風に変わってきていると…”。

どんな温度で、どれ程の時間をかけると一番美味しい旨味成分を引き出せるかということを科学的に分析した上での調理なのです。

料理は科学」。
本当にそうだと思います。当方の出汁も例外ではなく、昆布と、かつを節、醤油を合わせます。
昆布のグルタミン酸、かつを節のイノシン酸、醤油の乳酸菌、酵母による発酵でアミノ酸の旨味成分形成。それらが合わさることで”旨味の相乗効果”が生まれるのです。
この事一つとりましても”出汁”の美味しさは科学の結集と言えるのです。
青菜を茹でる時に塩を入れ、冷水に放つ色出し、色止め。
干し椎茸を戻す時に水に少量入れる砂糖での時間短縮、促進。
油揚げの一度冷凍してから炊くと、味が染み易く、柔らかくなる。
等々、当店のこんなちっちゃな調理仕事でさえも先人のコツを見習っているのです。
これも全て科学的根拠があっての調理法なのです。そう考えますと経験や勘でこれらの事を発見、画一化してきた昔の人はすごいですね。
酒造りや醤油造り、味噌造り等もこの集大成と云えるでしょう。
何故美味しくなるのか? とか、何故柔らかくなるのか?といったことを科学的に少しでも解っていますと調理の上でも失敗が少ない様に思いますし、人に教える時にも説明し易くなります。
「料理は科学」。
何度も書きますが、大事に研さんしていきたいと思います。

これとは逆に科学では計り知れないのが、人、うちで云いますと「お客様」です。

一人一人の個性に向き合う、一番至難な技ではないでしょうか。
美味しい調理、上手な接客、この相乗効果で店が成立します。

今年も一年、肝に命じて精進していきたいと思います。
下手なブログにもお付き合い下さい。
本年も宜しくお願い致しますm(__)m

「”かえし”って何?」|kaeshi,dashi,出汁,だし,権兵衛,そば,北山

皆様、何時もありがとうございます。
朝夕の、吐く息の白さが多い日が続く様になってきました。
温かい食べ物がご馳走の季節到来です。

さて今日も、蕎麦屋の用語ですが、ご存知ない方も多いと思いますのでお話させてもらいます。


かえし」。
耳馴れない言葉ですが各店にとっては出汁の味を決める秘伝の調味料なのです。
「かえし」とは「煮かえし」の略で醤油に砂糖、味醂、酒等を加え、煮かえした”調味醤油”の事です。
この「かえし」を一番出汁や二番出汁で割って蕎麦の出汁を作ります。
“ざる蕎麦”や”せいろ”といったつけ麺用の汁を”辛汁(からつゆ)”又は”上汁(じょうじる)”。温かい吸い出汁用に割った汁を”甘汁(あまだし)”と店毎に呼び方は違いますが使いわけます。
当店は”甘汁”には「かえし」は使わず、一番出汁に直接、生醤油で味付けしていきます。
各店で仕様は異なりますが、作ったばかりの「かえし」は直ぐ使わずに暫く寝かせます。こうすることによって醤油の角がとれて味が丸くなっていくのです。
ここら辺の時間や温度管理といった事が各店の秘伝と呼ばれる所以じゃないでしょうか。

「かえし」にも何種類かあって、季節により使いわけたり”そば・うどん”での違い、先述した”辛汁・甘汁”での分別です。

〇「本かえし」

醤油に砂糖、味醂を加え加熱します

〇「生かえし」

砂糖、味醂だけを加熱し、非加熱の醤油に加えます

〇「半生かえし」

一部醤油を加熱し、砂糖、味醂を加え非加熱の醤油に混ぜ合わせます

〇「御膳かえし」

上記の出来上がった「かえし」に更に味醂を加え寝かせます

この四種類あります。最後の「御膳かえし」等は”御膳”と付くように、追い味醂をして更に寝かせるといった贅沢な仕上がりです。

ちょっと逸れますが「ざる」と「もり」の違いとは?って良く訊かれます。
今では海苔を掛けるとか、盛り付ける皿が違うと説明されますが、どうもこの「御膳かえし」で割った辛汁を「ざる蕎麦用」、普通の「かえし」を用いた物を「もり蕎麦用」と分けていた様で、そば粉の差異だけでなく「かえし」も使い分けていたみたいです。
自ずと値段も違ってきた訳です。

話、戻します。こうして作った「かえし」も寝かせる時間で刻々と味が変化してきます。
当店では「本かえし」のみで、つけ汁用の”辛汁”だけの使用になりますので、どうしても夏場の頻度数が多くなります。
東京修業時代のお店は季節により「本」、「生」、「半生」と取り分けていて味の違いに随分と驚いたものでした。
火を入れない醤油を使うと出汁で割った時にかなり醤油勝ちの汁になり、暑い夏場の汗の多い時節には良く合う様に思いました。

こんな大層に言っていますが、ご家庭でも真似してもらって常備しておくとかなり便利な醤油なのです。
調味醤油ですので”焼き鳥“や”うなぎ“といった”タレ焼き“に重宝しますし、”豆腐”、”納豆”にも良く合います。
これからですと”湯豆腐“の割醤油なんかにぴったりです。


おおよその割合は、醤油3に対して味醂1、砂糖は醤油の重量の10分の1位で美味しく仕上がると思います。
先ず、味醂を煮沸してアルコール分を飛ばします(火がつくので注意です)。
そこに醤油、砂糖を入れて加熱します。(鍋底に砂糖が焦げつかない様に混ぜながら)そして清潔な容器に移して、冷まして下さい。
カビが付く事が一番恐いので、水分が入らない様に注意して下さい。
直ぐに使えますが、一週間程寝かせますと角のとれたまったりとした味に変わってきます。
そのまま常温で保管して下さい。お気に召して減ってきたら、上から足し続けていけます。
糠床同様、「かえし」も家庭の秘伝に加えて下さい。

最後に、秋の夜長に”謎かけ”を一つ。
「蕎麦屋の美味しい出汁と掛けまして、上手な漫才師と解きます」
その心は?
「どちらも、”かえし”が一流です」

今月もよろしくお願い致しますm(__)m (^^;

「夕方の出汁が美味しい!?」 | Why? You can feel dericious Dasi “in the evening”.

皆様こんにちは、毎度ありがとうございます。
毎日暑い日が続きます。その中お越しいただけますお客様には頭が下がります。
本当にありがとうございます。

さて、今日はこの暑さに、まんざら関係なくもない話をしようかと思います。
“明くる日のカレーが旨い!”   “3日目のおでんの為に炊いてるんや!”  なんて一度は使った言葉ですよね。
でもどうして、2日目のカレーが美味しく感じられたり、毎日連続で飽きもせずにおでんを食べられるのでしょうか?

それは刻々とルゥーの味が変わったり、おでん出汁の旨味が増すことに他なりません。一体何が起こっているのでしょう?
細かいことを省いて概に云えば『酸化』です。空気と触れあう事で調味料の角がとれて、まろやかに感じるのです。

出汁
そば・うどんの出汁にも当てはまる様に思いますのが今日のお題、『夕方の出汁が美味しい!』と言うのがそれです。


うどん・そばの出汁は、魚の節や昆布からとった出汁に醤油、砂糖、味醂を加え調味するいたって簡単な材料を使っています。この中で一際目立って仕事をするのが醤油です。


鰹節の旨味成分「イノシン酸」、醤油・昆布の旨味成分「グルタミン酸」この2つが合わさることにより相乗効果が現れ全体の旨味を構成します。

人間の舌は酸性に傾いた食味を美味しいと感じますので弱酸性の醤油を加える事でここでも又、美味しさを作り出すのです。


当店でも、朝一番に引いた出汁はその日の昼に使う分位は常温で保管してあります。その出汁が何時間か後には、良い加減に酸化が進み味に丸みを出すと言う訳です。
酸化の進み具合は、温度にも関係があり気温が高いと早く進むので、連日のこの暑さでは夕方はおろか昼には効果が出てきます。
もちろんこのまま放置しますと、旨味どころか腐敗してしまいますので暑い時分は要注意です。
先述したカレーのルウーなんかは、レストランでは一部高速ミキサーにかけて酸化を素早く促進させてから戻し入れるといった裏技を使う所も在ります。
ですので、当店でもその日の出汁を全部使いきらずに次の日の出汁に足す作業を行っています。

本当に自然の力の助けが無ければ美味しい味になりませんし、先人達の知恵には脱帽です。(良く脱帽しますが,,,,,,,,(^^;)

夏中の目標は、暑さ嫌いのバカ店主の頭の酸化がこれ以上進まない事が重要課題です(@_@)