一番、二番、三番出汁

みなさんこんにちは、何時もありがとうございます。
久し振りにブログを更新しましたので、よかったら読んでみて下さい。

とうとう師走になって気忙しくなってきましたが、例年通りの寒さにはまだとどいてない様です。
とはいえ、湿度も低くなってきて乾燥の季節がやって来ました。
水仕事の手指にはこたえます。が、調理の面では悪い事ばかりでなく、先ず第一に食材の腐敗の心配が低くなりました。
鰹節から引く出汁が濁らずにあがって、透明度が増します。明らかに、多湿の気候の時の灰汁(アク)とは違ってきます。
これは直に味に反映されて、醤油との混ざりも良く雑味のない一番出汁となります。

一番出汁とは、鰹節を決まった時間煮出してそれを漉した一番最初の出汁の事です。この時点ではまだ、醤油や砂糖で調味してませんので節と昆布だけの味です。
この一番出汁が”かえし”や薄口醤油と合わさりますと、付け汁や種物の吸い出汁に化けるのです。

この出汁にも一番出汁、二番出汁、三番出汁(バカ出汁とも云う)とランクがあって、まぁ今ではほとんど一番出汁しか使わないと思いますが
一度漉した節にもう一度熱湯をかけて、最初よりも薄い出汁を抽出します。
これが二番出汁、その二番に同じ事をしたのが三番出汁、これは殆ど香りくらいしかついていませんので、バカ出汁なんてひどい呼び方されてる様です。

ちょっと逸れますが ”ざる” と ”もり”の違いは?
なんてよく聞かれますが店によって曖昧で、海苔の有無、盛り付ける器の違いで説明される事が多い様ですが、この一番出汁、二番出汁にも一説あって
一番出汁で採った付け汁で食べるのを ”ざる” 、二番出汁を使ったそれで食べさすのを ”もり” と呼び分けた様です。
当然、一番と二番ではかかる経費も違いますので、商品の価格も自ずと変わってきて、”ざる” より ”もり” の方が安価で提供出来たのです。
ですので今ではそんな事ないでしょうけど、一昔前だと親方や旦那さんが ”ざる”、奉公人や使用人が ”もり” と相場が決まっていて、煙草のそれと同じ様に食べ物にも上下関係がついていた様です。
実際、僕が修業していた30年前の東京の店では、お客様は一番、店の人間は二番、個人の煮炊き用には三番と使い分けていましたし、その時は旦那さんも奥さんも
二番出汁で召し上がってました。

閑話休題。

そんなにも大事にした鰹出汁です。寒い時期は節の管理もし易いので、夏場よりストレスがありません。
これから年末に向けて、常より多い仕込みになってきます。
炊飯と同じ様に、出汁もたっぷりの量の方が美味しい一番になるように思います。

そんな美味しい一番を使った大晦日の”晦日そば”是非食べにお越し下さい。
一年の締め括りに ”そば” を食べる謂われも諸説ありますが、今年ばかりはこの元凶のウィルスとの関わりを”断ち切る”方を採用していただいて新しい年をお迎え下さい。
当方はそんなお客様とのご縁が、”細く長く”続く事を願って打ち方に専念致します。

寒さ厳しくなってきます。コロナだけではなく体調管理にも留意していただいて、お互い病に坑がう身体作りを心掛けたいものです。
ご来店お待ちしておりますm(_ _)m

「新米登場!」

新米

皆様、何時もありがとうございます。
彼岸も過ぎ、ようやく酷暑から解放され風の涼しさを感じられる様になってきました。とはいえ今週一週間は曇りがちな京都北山です。

さて、今年は「新蕎麦」より早くに「新米」になりました。
白飯、丼物全て「新米」での提供になります。

加水も少なく、ピカッと光る、色艶の良い炊き上がりで米一粒づつが、とても大きく感じられます。
秋の食材一番の醍醐味です。
前述したように蕎麦も「新蕎麦」になり魚も野菜も美味しくなってくる季節の到来です。
僕も一年の中で一番好きな季節で、これから暑い夏を迎える春よりも暖色が似合い、食べ物が美味しく少し肌寒い落ち着いた秋が勝ります。

皆さんも、蕎麦も御飯も”新”を楽しみにお越し下さい。

ところで、何故「新米刑事、新米アナウンサー、新米教師…」等
その職業に就きたての人のことを「米」の字を充てて、”シンマイ”
と呼ぶのでしょう?
調べてみますと、江戸時代の商家の奉公人、いわゆる丁稚さんですね、
彼等が新しく雇われると、一人づつに新しい前掛けが支給されたそうです。
周りの者は、その前掛けの新しさで新人さんだと判断していたみたいです。
ですので、最初は「新前掛け」から始まり、「新前」になり後に訛って
シンマイになり、「米」の字を使ったとされるのが有力説みたいです。
でも、人にしろ米にしろ、どちらも新しい事に変わりはないですもんね。

逆に何かの分野で長い経験と豊富な知識を持っている人のことを「ベテラン」と呼びます。
これも調べてみますと、語源はラテン語らしくて ”OLD” つまり「古い」を意味します。
でも本当は熟練した人に使う単語ではないらしくて「退役軍人」にのみ使う言葉らしいのです。
それが日本に伝わる間に変化していったものだと思われます。
一番良いのは「ベテラン」の域に達してるのに「新米」の気持ちを忘れない。
これができればお手本の親方になれるのでしょうけど、なかなかそうはいきませんね。

「そう言うお前も、そろそろ”とうが立って”きたんちゃうか?」
ですねぇ~、そんな歳になってきました。
日本語は難しいですね。

今季も沢山のご来店お待ちしております。m(_ _)m

きつね丼
きつね丼

「”らは” が ”きたやま”」?

皆様こんにちは、いつもありがとうございます。
久しぶりのブログ投稿です。春の忙しさをよいことに怠けて申し訳ありません。

今年も爽やかな季候はすぐに去り、早くも観測史上最高の真夏日の気温をたたき出した5月となりました。朝晩の寒暖の差や、熱中症で体調を崩されませんようご留意下さい。

さて、今回も訳の分からないお題となっておりますが、飽きずに最後までお付き合い下さい。

先日、テレビをつけますと寿司屋でお客さんがいかにも知ったか振りをしてその店で間違った調理用語や、接客用語の隠語を多用し、見かねた店主に注意を受けるといった、芝居仕立てのバラエティ番組がありました。
この隠語というのはそもそも、店の人間同士がお客様に聞かれない様にとか、意味を短い言葉で伝え合うといった、さまざまな理由がありますが顕著にお寿司屋さんで多く使われているのはお客さんとカウンター、つまり対面での接客が主だったからだと思います。
ちょっと知っている言葉を挙げてみますと

  • あがり→お茶
  • しゃり→すし飯
  • むらさき→醤油
  • ガリ→生姜
  • げそ→イカの足
  • お愛想→勘定

等々、まだまだ出てくると思いますが、皆さんもなじみのある言葉ばかりですね。
これくらいの用語ならもう、随分と一般的になっていますし使ってもそう嫌みには聞こえないんじゃないでしょうか。

この隠語の成り立ちをみてみますと、結構ダジャレが多かったり、逆さ言葉だったりとあまり難しく無さそうです。
中にはちょっと粋なネーミングもあったりして、調べていきますと結構面白いです。

最初の”あがり”は、お茶の意味で使用するのですが、これは花街すなわち遊廓や芸者衆の言葉だそうで、客の付かない芸者さんや遊女を「お茶を挽く」と呼んだそうです。まぁ、お茶を挽ける程の時間や暇があると言ったところでしょうね。
ですので、この「お茶」と云う言葉を嫌って、「客が上がる」つまり客が店にやって来るという験を担いで「あがり」と呼んだそうです。
もともと、お寿司屋さんは立ち食い露店だった様ですので、これを良く利用した芸者衆の言葉が根付いたと思われます。
ですので、”すごろく”などでゴールを意味する「あがり」とはちょっと意味合いが違ってきます。

この言葉一つとっても、意味が分かると使ってみたいという気持ちも良く分かります。
何もお寿司屋さんに限った事でなく、我が蕎麦屋にも隠語や符丁は存在しますし日々使っています。
お客さんが何気なしに「お愛想お願いします!」なんて言われますが、これなどは店側がお客様に対して「たいしたお愛想も出来ずに申し訳ありませんでした」と、お勘定の時に使う、へりくだった言い方がそのまま「おいくらですか?」に変化したのだと思われます。元来あった意味合いとは違う使われ方に変化したのでしょうが、言葉って時の流れで変わっていくものの様なので、あまり目くじら立てなくってもよい気がしますけど。
でも余りにも知ったかぶりで使用しますとキザに聞こえたり店側にも嫌われそうですね。

食べ物商売だけではなく、いわゆる”業界用語”なんて呼ばれる言葉も、知らず知らずに使っていたりしますよね。
「ピン芸人さん」とか「ネタ」とか「巻く」、「ロケハン」とか思い付くだけでもいっぱいありますけど、もう隠語とは云えませんね。
「ネタ」などは「種(タネ)」を逆さまにしただけなのにこの言葉の方が通じる様になった例ですね。
「寿司ネタ」とか「ネタ帖」なんてこの方が分かり易く聞こえますもんね。

この言葉の遊びをふまえて今日のお題の「”らは” が ”きたやま”」ですが、何の事でしょう?
上方の古典落語「煮売屋」に出てきます一説です。
人前で話すことがはばかられる場面での言い回しで、「お腹が空いた」の意味です。
らは”は逆さ言葉で腹の事、”きたやま”は北山の事で、北に在る山々を眺めると何時も透いて見えている様子を表し、二つ繋げると「腹が透いた(空いた)」となります。如何にも落語的な言い回しですが、ちょっと使ってみたくなります。

当店にも隠語がそのまま商品名になった品があります。「板わさ」です。
これなども、蒲鉾が木の板に乗っている様からカマボコを”板”と呼び、それを”山葵醤油”に付けて召し上がっていただくので省略して”板わさ”って言います。「切り蒲鉾の山葵醤油添え」って云うより粋ですもんね!

最後にとっておきなのを一つ!
「蕎麦を喰いに行こう!」
この言葉自体が隠語だそうで江戸風俗の本をながめていますと
「女郎を買いに行く!」
の意味だそうです。驚きです!
「蕎麦は注文が通ってから打ち始めて、打ち上がるまで時間が掛かるその間に店の二階で遊女と枕を共にする、逢瀬を楽しもう」
というのです。
こんな艶っぽい言い方もあるんですね。

えっ!「良いこと聞いた!お前とこの二階貸してくれ!」ってですか?
お生憎様です。
当店の二階は僕も小さい時分から通ってお世話になっている、歯科医院が入って居られまして、艶の虫はおろか本当の虫歯を見つけられてたちどころに抜かれますよ!お気を付け下さい(笑)

皆さんも”らはがきたやま”でしたら是非一階へお越し下さい。
腹の虫は満足させられます!

今日はぼちぼちと上がらしてもらいます。

先述の通り、どんどん暑くなってきます。くれぐれもお身体ご自愛下さい。
お付き合いありがとうございましたm(_ _)m

「黄金の物差し」

トイレ写真2

皆様こんにちは、毎度ありがとうございます。
節分も過ぎ、ちまたではバレンタインやおひなさまの広告、宣伝を見かけます。日が暮れるのも幾分か遅くなったと感じられる様になってきました。
やはり暖冬のせいか今年は、底冷えの京都という感覚はなかった様な気もします。
とはいえ、まだ流感が猛威をふるっているらしく、風邪と共に気を付けておからだご自愛ください。

さて、本日のお題は「黄金の物差し」

黄金のものさしはて、何のこっちゃ? ですよね。
去年の秋口に、常連のお客様のFacebookのポストに当店の事を書いていただいた記事があります。
料理や接客態度、値段等々についてではなく、うちの店の”トイレ”が好きとコメントくださったのです。

トイレ写真1実は、今の店の設計に当たって調理場の動線の次に重視したのがこの”トイレ”でした。狭くても綺麗で居心地の良い空間にしたかったのです。

もう何年も前ですが、テレビで視たドキュメンタリー番組なのですがそれはフランスの地方都市にある、ずいぶん繁盛している三つ星レストランのお話でした。
大層お料理も美味しく、瀟洒(しょうしゃ)な造りの館で、毎日予約で詰まっているのが常のお店なのですが、お客様が食べてお帰りになる度に店の主人自らがトイレ掃除を行うのです。つまり日に何度もということなのです!
星を獲得できる名店というのは、味や接客、調度品の素晴らしさだけでなく
食事や調理の対極にあたる所まで主自身が目を光らせ、行動に移さないと駄目なのだと感心しました。

その映像が目に焼き付いていましたので、店のトイレにもその精神をまねしてみたのです(お帰りの度の毎回掃除とまではいきませんが^_^;)。ですので、今回のいただいたこのコメントが僕のトイレへの考えと一緒でしたので本当にうれしかったのです。
「トイレの良い店は隅々までおもてなしの心が行き届いている」
と書いておられました。
こんな褒め言葉いただけるとは思ってもいなかったので、何度も何度も読み返しました。
トイレ写真2僕もトイレの綺麗なお店は、味にもプラスされて、美味しくないはずがないと思っています。
自分の中に決めたルールみたいなものがあって、それにそぐわないとトータルで
合格点には達しないのです。
そのルールこそが今回の「黄金の物差し」だと、自分で勝手に名前をつけてみたのです。

皆様も、それぞれこの”物差し”をお持ちだと思います。

ちなみに僕は、自分がお金を出せる範疇(はんちゅう)で買おうか止めようかと悩む時はその欲しいものが1週間、頭の中から出て行かなかったら購入する事にしています。つまり、それにどれ程熱を上げているか物差しで計っているのですね。
まぁ、たいがいのモノは1週間保たずに消えていきますが、それでも忘れられずに手に入れたものは、多少値がはったとしてもだいじにしますし愛着がわく事になるのです。

現に今、手元に残って毎日使っている年代物は、過去にこの”物差し”にあててみて”黄金”に光った物達ばかりの様に思います。
ですから昨今の百円均一のお店ではあまりにも安価なのでこの”物差し”の出番がなく、ついついになってしまい結局のところ要らない物まで買ってしまう始末です。

この”物差し”は物だけではなくて、人間関係においても大いに威力を発揮する様に思います。
初めての方とお話ししていても、途中でキラッと光ると、たちまち旧知の仲になれる様に思いますし、突っ込んだ話もできそうです。
お客様とは対等にとはいきませんが、今回のように
「トイレが良い店はきっと味も良い」
という「黄金の物差し」の光り方が一致した事は、僕の物差しもまだまだすてたものではないという事です。

皆様の物差しの光所も教えて欲しいものです!
いかがです?恋人や伴侶には光輝きましたか?
僕の場合は、奥さんの物差しが果たして”黄金”に光ったか?それこそ
「計り知れません」。( ̄0 ̄)

今月もお客様の”物差し”がたくさん光り輝く様に精進して行きます。
どうぞ、よろしくお願い致しますm(_ _)m

追伸としまして、今月20日から6日間、毎年恒例の
「京都高島屋 ごちそう展」
開催です。
当店も展示、実演と参加させていただきます。
お時間ございましたらぜひ7階までお越し下さい。
店と併せてたくさんのご来店お待ちしております<m(__)m>

「一枚目、二枚目、三枚目!」

南座全景

皆様こんにちは、いつもありがとうございます。
今年も早、カレンダーの最後のページ二段になりました。(こう書くのさえせわしないですが………..)。

南座全景

先月の終わりに、二年間耐震補強工事のため休館していた京都南座に久しぶりに「まねき」が揚がりました。
「まねき」とは、京の師走の風物詩「吉例顔見世興行」の開幕前に劇場の正面に揚げられる、出演歌舞伎役者の名前が記された木看板の事です。
例年通りですと、年末のひと月公演ですが、今年は南座が約三年間の休場を経ての再開場でしたので、11,12月の二ヶ月公演が行われました。そのため、ひと月早いお目見えとなったのです。
読んで字のごとく、お客様を招き寄せるようにと付いた縁起の良い名前ですね。
さて、今回はこの「まねき」にまつわるお話。最後までお付き合い下さい。

南座顔見

ハンサムやカッコいい男の人を二枚目と呼んだり、醜男(器量の悪い男)やお笑い担当の人の事を三枚目といったりしますよね。実はこの言葉「まねき」に由来してるらしいのです。

江戸時代、歌舞伎小屋には俳優の看板(名前だけではなく、場面や所作事の切り取り、今でいうサムネイル的な看板)が揚げられてたそうです。
この看板が全部で八枚あって、そこに登場する役者は人気や実力があるという証ですので、それこそ大看板ですね。

その看板の一枚目から八枚目まで、それぞれ役割が決まっている様です。

  • 一枚目・・・・・・トップですので当然主役ですね
  • 二枚目・・・・・・若くハンサムで色事担当
  • 三枚目・・・・・・道化、お笑い担当
  • 四枚目・・・・・・まとめ役、中堅役者
  • 五枚目・・・・・・そのお話、物語での敵役
  • 六枚目・・・・・・憎めない敵役
  • 七枚目・・・・・・全ての悪事の黒幕
  • 八枚目・・・・・・座長、元締め

こんな順番になってたみたいです。

なぜかこの二枚目、三枚目だけが残って、今も使われてるみたいですね。
因みに得意な事を十八番(おはこ)と呼ぶのも、歌舞伎の言葉で成り立ってるみたいですよ。何もお芝居に限らず普段の環境においても、この八通りの人物で生活出来てるんじゃないかと思えてきます。
皆さんはさしずめ何枚目辺りですか?

秋も深まり初冬をむかえ、食材も美味しくなってきました。
当店もあの手この手で「まねき」ならぬ「しながき」を看板に揚げておりますが
何と申しましても一枚目の主役、お客様が入って来られませんと開幕できません。
「招き猫」の手も借りたい程の大入りを期待して師走を迎えたいと念います。

「えっ、誰がいうてんにゃってですか?」
「ハイ、終始三枚目を相務めます 当店店主にござりまするぅ~」<m(__)m>