「”かえし”って何?」|kaeshi,dashi,出汁,だし,権兵衛,そば,北山

皆様、何時もありがとうございます。
朝夕の、吐く息の白さが多い日が続く様になってきました。
温かい食べ物がご馳走の季節到来です。

さて今日も、蕎麦屋の用語ですが、ご存知ない方も多いと思いますのでお話させてもらいます。


かえし」。
耳馴れない言葉ですが各店にとっては出汁の味を決める秘伝の調味料なのです。
「かえし」とは「煮かえし」の略で醤油に砂糖、味醂、酒等を加え、煮かえした”調味醤油”の事です。
この「かえし」を一番出汁や二番出汁で割って蕎麦の出汁を作ります。
“ざる蕎麦”や”せいろ”といったつけ麺用の汁を”辛汁(からつゆ)”又は”上汁(じょうじる)”。温かい吸い出汁用に割った汁を”甘汁(あまだし)”と店毎に呼び方は違いますが使いわけます。
当店は”甘汁”には「かえし」は使わず、一番出汁に直接、生醤油で味付けしていきます。
各店で仕様は異なりますが、作ったばかりの「かえし」は直ぐ使わずに暫く寝かせます。こうすることによって醤油の角がとれて味が丸くなっていくのです。
ここら辺の時間や温度管理といった事が各店の秘伝と呼ばれる所以じゃないでしょうか。

「かえし」にも何種類かあって、季節により使いわけたり”そば・うどん”での違い、先述した”辛汁・甘汁”での分別です。

〇「本かえし」

醤油に砂糖、味醂を加え加熱します

〇「生かえし」

砂糖、味醂だけを加熱し、非加熱の醤油に加えます

〇「半生かえし」

一部醤油を加熱し、砂糖、味醂を加え非加熱の醤油に混ぜ合わせます

〇「御膳かえし」

上記の出来上がった「かえし」に更に味醂を加え寝かせます

この四種類あります。最後の「御膳かえし」等は”御膳”と付くように、追い味醂をして更に寝かせるといった贅沢な仕上がりです。

ちょっと逸れますが「ざる」と「もり」の違いとは?って良く訊かれます。
今では海苔を掛けるとか、盛り付ける皿が違うと説明されますが、どうもこの「御膳かえし」で割った辛汁を「ざる蕎麦用」、普通の「かえし」を用いた物を「もり蕎麦用」と分けていた様で、そば粉の差異だけでなく「かえし」も使い分けていたみたいです。
自ずと値段も違ってきた訳です。

話、戻します。こうして作った「かえし」も寝かせる時間で刻々と味が変化してきます。
当店では「本かえし」のみで、つけ汁用の”辛汁”だけの使用になりますので、どうしても夏場の頻度数が多くなります。
東京修業時代のお店は季節により「本」、「生」、「半生」と取り分けていて味の違いに随分と驚いたものでした。
火を入れない醤油を使うと出汁で割った時にかなり醤油勝ちの汁になり、暑い夏場の汗の多い時節には良く合う様に思いました。

こんな大層に言っていますが、ご家庭でも真似してもらって常備しておくとかなり便利な醤油なのです。
調味醤油ですので”焼き鳥“や”うなぎ“といった”タレ焼き“に重宝しますし、”豆腐”、”納豆”にも良く合います。
これからですと”湯豆腐“の割醤油なんかにぴったりです。


おおよその割合は、醤油3に対して味醂1、砂糖は醤油の重量の10分の1位で美味しく仕上がると思います。
先ず、味醂を煮沸してアルコール分を飛ばします(火がつくので注意です)。
そこに醤油、砂糖を入れて加熱します。(鍋底に砂糖が焦げつかない様に混ぜながら)そして清潔な容器に移して、冷まして下さい。
カビが付く事が一番恐いので、水分が入らない様に注意して下さい。
直ぐに使えますが、一週間程寝かせますと角のとれたまったりとした味に変わってきます。
そのまま常温で保管して下さい。お気に召して減ってきたら、上から足し続けていけます。
糠床同様、「かえし」も家庭の秘伝に加えて下さい。

最後に、秋の夜長に”謎かけ”を一つ。
「蕎麦屋の美味しい出汁と掛けまして、上手な漫才師と解きます」
その心は?
「どちらも、”かえし”が一流です」

今月もよろしくお願い致しますm(__)m (^^;

「手打ち? 機械打ち?」|Handmade or Machining? Soba,Teuchi,gonbe

皆さま何時もありがとうございます。

食材も暖色系のものが多くなり、目でも秋を感じとる事が出来る時節となりました。当店の”そば”や”米”も「秋新」を迎え、お客様の舌を肥さす準備も整って来ています。

さて先週は「新そば」とは?って、お話しましたが今週は、その打ち方についてちょっとだけ掘り下げてみたいと思います。

「手打ち」「機械打ち」はどう違うのでしょう?

それぞれに長所、短所があります。
なにがなんでも「手打ち」が美味しいわけではなくて、下手に手で打つくらいなら機械で狂いなく打った方がよほど良いそばになるのも確かな事です。
少し専門用語になりますが、「手打ち蕎麦」の手順をおおまかに挙げてみます。

    1. 「水回し」粉に水を加えていく作業です

    2. 「練り」少しずつ塊になってくるので、それら同士をくっつける様に練っていき大きな塊に練り固めます

    3. 「くくり」練り固めたら木鉢の側面を上手く使い、表面の滑らかな円錐の塊にします

    4. 「丸だし」その円錐の塊を平らにし、”のし板”に移し丸く伸ばしていきます

    5. 「角だし」丸く伸ばした生地を今度は四角く角を出していく作業です

    6. 「幅だし」その四角くのした生地で蕎麦の最終的な長さにのしていきます

    7. 「本のし」最後に全体の厚みが均一になる様にのします

    8. 「たたみ」のした生地を切る用にたたみます

    9. 「切り」たたんだ生地を”駒板”というガイドに沿って裁断します

    10. 「湯がき」麺状にした生地を湯がく作業です

少し偉そうな用語でざっと説明しましたが、かなりの練習、稽古が必要ですしお客様の口に入れてもらってお金を頂戴しようと思えば速さや綺麗さも要求されます。
このの作業を機械がやってくれるとしたら、量販出来ますし時間短縮も図れるかなり魅力的な話です。

時代は高度経済成長の頃、製麺機が登場しました。今ではほとんど見かけなくなり、何かのイベントの余興で披露されるくらいになりましたが、職人さんが沢山の“せいろ”を肩に担いで、自転車での出前が全盛期の頃の事です。この機械の導入で麺店は劇的に変わったことでしょう。
生産量の向上、人件費大幅削減、麺の味の均一化が約束されたのです。
でも今もって、この機械の構造や速さは変わっていませんが…。

少し話はそれましたが、「手打ち」と「機械打ち」とでは”そば生地”にどんな違いがあるのでしょう?
一番大きな違いは、そば粉に加える水の量にあります。「手打ち」の加水率の方が多いのです。

これを”多加水“と云いますが、これを同じ量だけ機械の撹拌機(カクハンキ)に入れますと後で伸ばす時に生地同士がくっついて上手くいかないのです。


機械は2つのローラーの間に生地を入れて伸ばしていきますので、かなりの圧力が麺体にかかります。
手打ちの場合、手と麺棒の圧しかかかりませんので生地の中に沢山の空気穴が出来ます。これに対してローラーではこの空気穴が押し潰されてしまいペッタンコの生地になります。実はこの空気穴が非常に大事で、後の茹であがりの時間を大きく左右します。
麺を湯がくというのは、湯を生地の中に入れていく作業になりますので、無数の穴が空いていると湯が入りやすく茹であがりが早くなります。
前にも書きましたが、麺類は湯の中に浸かっている時間が短ければ短い程美味しくなります
ですので、最初から多加水で、湯が入り易くのされた「手打ち麺」は美味しくなるのが道理なのです。
早く茹であがると云う事は逆に、早く伸びてしまうともいえます。
ですから「手打ち麺」は温かい汁に浸かった種物には向かないのです。

もう一方の「機械打ち」では、あがりは遅くなりますが、麺体が均一にのされていますので決まった時間で湯がけます。これはその時間さえきっちり決めておけば誰が湯がいても同じ味になりますし、のびるのも遅くなりますので汁物にも充分に対応出来るのです。この辺のところが”出前”を流行らせた所以かもしれませんね。
非常に簡単に違いを説明しましたが、「手で打つ」のも「機械で打つ」のも両方とも人間が携わる事です。気温や湿度の変化の違いや、季節によっても変わる加水率を決めるのはやはり人です。同じだけ気を遣って打ちます。
当店は、「機械打ち」が専らですが、一日限定数で「手打ち」もお出ししています。


何人かでおみえいただいた時には、食べ比べされても面白いかもしれませんね。
先週も記述しましたが、これから秋本番!食べ物全般、美味しくなってきます。
蕎麦も例外ではありません。
外食されるレパートリーに是非とも加えて下さい。出来れば”多加水”で…m(__)m

  「蕎麦の湯がき方指南」| How to make delicious soba?

みなさま何時もありがとうございます。

生かすも殺すも釜次第!
「生かすも殺すも釜次第!」
最初から物騒な題で?って、なりますが、これは二十数年前、僕が東京修行時代に”旦那さん(親方)”の口がすっぱく成る程、こちらの耳にタコの出来る程聞かされ続けた言葉です。

“釜”とは蕎麦を湯がく釜の事で、その作業にあたっている人を”釜前さん”と呼びます。そば粉の吟味に始まり、色んな行程を経て麺状になり、お客様の口に入る最終行程が湯がき作業になる訳です。
どんなに良い粉を使っても、名人と呼ばれている人が打っても最後の湯がきが下手ですと”駄そば“になります。逆に少々手抜きに打っても釜前さんの仕事が良いと”美味しい麺“に変わります。
「生かすも殺すも釜次第!」。
最後まで手を抜かずに仕事をしなさい  という戒めの言葉だったのです。


生かすも殺すも釜次第!さて、当店でも夏場は暑さで腐敗の問題もあり今は止めておりますが、秋口から再開しようと思っております、”持ち帰り蕎麦“がございます。
ご家庭でも店と同じ味を…という訳で、生麺とお出汁をセットにして提供していますが、お客様からのお声で多いのが「上手く湯がけない」、「同じ味にならない」というのがございます。
そんな意見を踏まえて、少し湯がき方のコツみたいなものをお話しようと思います。もちろん、市販されている乾麺なり生麺でも同様です。

上手くいかない失敗例としましては、お湯の量が足りずに麺が湯の中で回らずに(踊るとも云います)ダマになって上がってしまったり、湯がき上がってからもたついてしまって、直ぐに冷水でしめられずにフニャフニャの蕎麦になってしまう…等々です。
改善出来る事例ばかりですので是非、参考にして下さい。

大体、生蕎麦100グラムを一人前とします。(市販の場合は記述してある通りで)。
そしてお家にある一番大きい鍋なり寸胴にお湯を沸かします。出来れば5リットル位は沸いていて欲しいです。そのお湯の中に(必ず沸騰している状態で)一人前を投入して下さい。必ず一人前ずつです。


必ず一人前ずつ湯がいてください
大事なのは、そのお湯の中で麺をクルクルと対流させる事です。麺が湯の中で踊ると均一に湯がき上がりますし、上がりムラが出来ません。その為にたっぷりのお湯が必要なのです。
そしてもう一つ。規定の表示時間よりも早い段階でザルなり網を鍋に入れ、時間と同時に上げられる様に事前に用意します。この段取りの良さが味を左右するのです。上がった蕎麦はキレイにぬめりを取り、冷水でしめます。


遠心力を使って優しくうどんや素麺の様にもみ洗いせずに一定方向に回し洗いして、遠心力を使って優しく行います。こうすると切れません。

随分とエラそうに指南なんて言葉を使いましたが失敗しても何度か挑戦してみて下さい。いずれ上手くいくと思います。そして自分のものにしていって欲しいです。
何度も云いますが、たっぷりのお湯で少量ずつ湯がく、これがコツです。
上手くいきますと、この作業が楽しいものにかわります。そうしますと他の麺料理のバリエーションが広がってきますしね♪

「そんな、七面倒くさい事出来ひん!」って思われましたら迷わず当店の暖簾をくぐって下さい。首を長くしてお待ちしております。
何せ、うちの店は「生かすも殺すも、お客様次第!」ですので……m(__)m