「緊張と緩和」

皆様こんにちは。何時もありがとうございます。
朝晩の涼しさと虫の音で少し季節の移り変わりを感じられるようになって来ました。
今日はエライ小難しい題になっておりますが大好きな落語のお話をしてみようと思います。まんざら接客業に関係なくもないので、暫くの間お付き合いを願います(笑)

もう少しで亡くなられて20年になりますが、大阪の落語家さんに”桂 枝雀”さんと言う方がおられました。私、小学生高学年の頃から傾倒していまして本気で弟子にとってもらおうと思った程でしたし、大阪や京都で行われる独演会やお芝居には欠かさず訪れたものでした。
その彼が唱えたのが、この「緊張と緩和」笑いの理論です。大なり小なり緊張が緩みますと笑いが生まれるというのです。
例えてみますと、最終電車に走ってギリギリ間に合い、乗った途端にドアが閉まると安堵の笑みがこぼれます。
又は大好きな女の子にドキドキで告白して、OKをもらったときもガッツポーズと共に笑みが出ますもんね。
こういった様に各人緊張と緩和が交互に訪れ毎日生きていけるのだろうと思います。緊張ばかりだと思い詰めますし、緩和しか無いのもダレますしね。

さて、せっかくなので大好きな落語で例を挙げてみましょう。

「饅頭こわい」。お好きな方は100%知っておられる古典落語の一つです。
ご存知無い方の為にざっと説明しますと、いつもの様に気の置けない仲間何人かが寄りまして”よもやま”の話をしている場面です。それぞれが「こわい物」が何かを順番に挙げていっているところで、ちょっと高い目線から皆を見下すように物言う男が一人。普段から偉そうにしているので皆に少し嫌われています。
その彼のこわい物が「饅頭」だったのです。これ幸いと皆が相談してお金を出し合い、ありったけの「饅頭」を買ってきます。
それを家に居る彼に向かって投げ入れ、あわてふためくのを見て楽しもうと算段します。彼が帰宅後に他の連中全員で訪ねて、一人ずつ「饅頭」を投げ入れます。
でも、物音一つしません。そりゃそうです。あれだけ怖がっていたものがあんなに沢山飛んできたのですから、気絶しているか或いは死んでしまったか?
一同に緊張が走ります。暫くすると中から何やらムシャムシャと音がしてきます。
戸の隙間から覗き見しますと、なんと!彼が嬉しそうに「饅頭」を食べているではありませんか!! これには皆もまたしてもやられた~!と落胆します。
「あんたのホンマにこわい物は何や?」と訊き直しますと中から彼が顔を出して
「へい、今度は熱いお茶が一杯…こわい」。これがサゲです。
ひょっとしたら、死んでしまったんじゃないかと思う緊張とそれを逆手にとって好物にあり着いた、正に「緊張と緩和」の笑いにふさわしい落ち(サゲ)になっています。

当店におきましても緊張材料と云いますのは、なんと言いましてもお客様です。
どんな方がお見えになるのだろう?  お口に合うだろうか? 雰囲気はお気に召したのだろうか?…かなり気になります。
これを緩和していただけるのも、やはりお客様です。ガラッと戸が開いて、入ってお見えになったのが常連様ですと思わず笑みが出ますし、「美味しかった!」って厨房にまでお声かけいただくと、ホッとして口角が上がります。
お客様の方でも初めてのお店は緊張材料でしょう。
味加減は良いのか?  接客態度は「◎なのか?」「 値段は相応か?」 等々あると思います。
それらを一つずつ緩和出来る様に努めていくことが、店を継続していく秘訣なんじゃないかと思っています。

えっ、「さっきからエラそうに言うてる、お前のこわい物は何や!」てですか?
「それはもう、とびっきり綺麗な女性と、今でしたら秋刀魚の塩焼、松茸と鱧の入った柚子の香りの利いた土瓶蒸し、キリッと冷えました純米酒が2合程…
こわい」。

おあとがよろしいようでございますm(__)m